「虚無雪」
 
この雪に息を潜めればすべて消し去ることができるかもしれない
途方もなく灰色の空を見上げてふわりふわりと舞う破片を抱くと
あるはずのない微かな温もりを感じて我に帰る
 
いくつも通り過ぎてきた冬という季節は
いつもと同じように走って去って行こうとしている
つかみどころがなくつかむものもない冷たさに
白い息を吐いてしばらく目を閉じる
 
気づけば始まっていたように知らぬ間に終わるもの
意識を介在させたがるから話が複雑になるのであって
落ち着く場所も知らずにただただ散る粉雪のように
手を触れないでじっと見つめていればいいんだ
 
こんな瞬間にも頬に降り積もる結晶
形を得ることなく消えていく感情
 
立ち竦む足元から凍っていくような気さえする
このままこうしていればすべて終わりにできるかもしれない
当てもなく薄闇色の空を見上げて黙っていよう
忘れるはずのない確かな温もりを思い出して目を閉じたまま泣く



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