「眩暈」
 
あたしがあたしをあたしと言う時のあたしはとても空っぽで
埋めたいとは思わないけれど埋まったらいいなとたまに思う
 
そんな時あたしは抱かれに行く
 
あの顔が見たくて会いに行って会って
あの手を握って並んで歩いて
あの角を曲がって人目を忍んで
あの扉を開けてベッドに伏せたら
 
その目がその舌がその耳がその声が
この目がこの舌がこの耳がこの声が
その手が異空を抱いて
この手が憂鬱を解放する
 
時間の流れで善悪を判断しないで
一緒にいる瞬間の連続の中にだけ幸福が在るわけじゃない
 
触れて感じて
触れないで感じて感じて
 
初めての時から何も変わらないあの声が
この耳の奥の奧に棲み着いている
あの声があの声があの声があの声が
あたしの身体の一部を噛み千切って床に吐き捨てる
 
何をしても埋まらないのに
あらゆるものを詰め込んでみようとする
もしそれで埋まったとしたら
この上ない快感が訪れるかもしれない
 
息を潜めて力を抜いて
あたしはただ抱かれる
あたしはとても宙ぶらりん
離れたって消えたって大丈夫になる
 
この声は消えない
この声は消えてなくならない
だからあたしはいつも
 
眩暈という迷いの中にいる



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