「曖昧な記憶」
 
見つめるだけの時間を過ぎて
近づいて離れて
すべてつかんで失ったあとに
気づくのは存在
 
その横顔もその手も
たしかにわたしのものだった
そんな考えがよぎると
切ない気分に落ちる
 
まだ見えない
まだ
 
思うようにしてきたつもり
それでも後悔は先に立たない
くやんでもくやみきれないのは
もうそこに戻ることができないから
 
たしかなことなど本当は
なにひとつ言えない
何度繰り返しても刻めない
破られた誓いの破片が散らばる
 
まだ見えないんだ
まだ
 
そのうち記憶も曖昧になってきて
たしかだったとさえ思えなくなる
それが今のことなのか
少し前かずっと前かなんて
区別がつかなくなってくる
 
見つめていたのに
面影も薄れて
 
もう見えない
もう
 
いつかすべて忘れてしまうなら
今がそのいつかになればいい
かけらをつなぎ合わせても
元に戻らないのなら
 
もう見えないんだ
もう見えない



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