| 「紫宵」 |
| 空気がひやりとする宵に |
| 散歩がてら近所を歩くと |
| 匂いや色で気づかされる |
| いつもは見えない季節の変わり目 |
| どこからか下駄の音 |
| アスファルトをこする硬い音 |
| 微妙な紫色の空の縁が |
| 目に映って思い出されるのは |
| いつとは明言できないような |
| あの時 |
| どこからか子供の声 |
| 帰る道々笑いながら走る声 |
| 本当にぼんやりと考え事をしながら |
| まとまらない頭を高くして |
| できるだけいろいろなものを見ようと |
| また背伸びをして触れる景色 |
| どこからか私を呼ぶ人 |
| 時間だよと知らせてくれる人 |
| 一番星が現れるころようやく |
| 固まり始める思いを手にして |
| それでもまたゆっくりと歩きつつ |
| 小さなため息を力に変える |